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大淀町 観光施設の環境整備など 文化財保存活用地域計画を公表
2024.3.15 大淀町
大淀町は去る1日、地域遺産を町総がかりで保存・活用し、次世代に継承していくため、「文化財保存活用地域計画」を刊行した。同計画は地域住民をまちづくりの主体と捉え、町を担う次世代に遺産の保存・活用について考えてもらうことを想定している。
地域遺産とは、地域に残る国宝や重要文化財に登録されない歴史的な遺産のことで、文化庁はこのような遺産を守る事業を平成27年より進めてきた。同町はこれより先に平成23年頃から開始。県内では王寺町に次ぎ2番目に、文化庁から計画の認定を受けた。地域遺産保護活動は全国的に広がりつつあり、事業実施担当の同町教育委員会事務局文化振興課松田度係長によると今後、「地域遺産」が流行することも考えられる。
同町はニュータウンと古くからの町が共存し、住民が町のアイデンティティを持っていないことが課題で、過疎化・少子高齢化により更に遺産や伝統文化の継承が困難となっている。遺産資料が適切に管理されておらず、一括管理できる拠点施設を確保できていない。これらの理由から同町は、地域遺産を住民と人々のつながりをもとに、皆で支えながら、守り伝え続ける社会をつくる。また、多様な人々が自然や歴史文化を学び深められる常設施設をつくることで、ふるさと意識の向上を図り、確実に次世代へ継承することをめざす。
重点事業は下図に示す。この他の事業内容は次のとおり。
▼指定等文化財の修復・修理。
▼景観を守るための雑木伐採・草刈清掃。
▼見学者用ベンチ・トイレ設置。
▼見学路整備、地域遺産(寺社・近代建築・古民家・橋梁と川沿いの景観)を活用した小規模イベントの実施など。
計画期間は令和6年度~10年度の5年間。同計画は平成29年度より進めていた第4次大淀町総合計画に続く、次期計画(令和9年度実施予定)と整合性を計るため、令和8年度には内容の更新を検討する。財源は町費(自主財源)、県費(各種補助金)、国費(文化財関係補助金、デジタル田園都市国家構想交付金等)をあてるほか、その他の民間資金等を活用しながら進める。事業は行政、地域、団体、機関が主体となって行う。具体的には、辻本眞宏町長、同町教育委員会、同町文化財保存活用地域計画協議会、同町文化財保存活用地域計画協議会事務局。指導・助言は文化庁、助言のみは奈良県と同町文化財保護審議会が担当する。
今後、(仮)大淀町文化財保護指導委員を設置し、巡視等による地域遺産の現状把握と保護体制を強化すると共に、地域遺産の保存・活用にかかわる民間団体を文化財保存活用支援団体に指定し、住民との協働・連携事業を推進していく。同町には令和5年8月時点で、計21件の指定等文化財(国指定1、県指定3、町指定17)が確認されているが、未指定の文化財は231件あり、調査・整理によっては更に増える可能性がある(未指定文化財の建造物14件、遺跡37件、動物・植物・地質鉱物6件、文化的景観3件、伝統的建造物群1件、埋蔵文化財84件)。地域遺産の特徴は、実質的な裏付けがなくても、人々の記憶や想いの継承を遺産と捉えること。地域遺産の一つ、保久良(ほくら)古墳は、斉明天皇が孫である建皇子の死を偲んで詠んだ歌が同町今木町の由来になったことなどから選定。線状降水帯による影響で一部崩壊し、災害復旧工事を進めている。その歴史についても語り継いでいく。
同町の専門職員は松田係長、一人のみ。松田係長は令和3年、南都銀行のグループ会社「奈良みらいデザイン」が吉野町の阪本旧本邸を買収し、高級宿泊施設にリノベーションした際にも協力した。地域計画で参考にしている自治体は、岩手県遠野市、静岡県浜松市など。浜松市は積極的に取り組んでいるため文化庁の協力を得やすく、デジタル田園都市国家構想交付金の申請等がスムーズに行える。浜松市は、自治体同士が競合関係となったことで事業が活性化した。
同町は平成28年度より町独自で「おおよど遺産」100件を選定。大字(江戸時代の村にあたる)を単位に各自治体や、民間企業、住民等を含むボランティアによって希少な情報が寄せられた。事業継続には、次世代への引継ぎが鍵となる。
来年度は遺産調査の情報から歴史ストーリーを映像化する方針。企業、組合だけでなくアーティスト等が協力できる流れをつくる。将来、吉野熊野国立公園の父と呼ばれる岸田日出男が、NHK連続テレビ小説のモデルとなることを思い描く。
利便性向上と歴史保護の観点でバランスを取りつつ、地域住民の意見を反映して事業を促進。県内で参考にしたい町並みは御所市の「ごせまち」で、同町には吉野川沿いに東西10㌔㍍ほど続く伊勢南街道に古い町並みが残る。