一般記事

加点制度による入札優遇策 いつまで続く 賃上げする大手、踏み切れない中小

2022.11.14 国交省

コロナ克服・新時代開拓のための経済対策  成長と分配の好循環を実現するために

国が総合評価落札方式の入札に導入した賃上げ企業への加点制度は、いつまで続くのか、業界は困惑している。
国交省は、今年4月以降に契約する案件から、直轄工事や建設コンサルタント業務の総合評価落札方式の入札で、賃金引き上げを表明した参加企業に加点措置を行っている。
これは、岸田政権の方針を受けて財務省が昨年12月17日に各省庁に送った通知「総合評価落札方式における賃上げを実施する企業に対する加点措置について」(閣議決定に基づくことを明記)に基づく施策だ(既報)。
財務省はこの方針を踏まえ、賞与などを含む年間給与を所定の割合以上引き上げる計画を表明した企業を対象に、令和4年4月以降に契約する案件から総合評価入札で加点するよう各省庁に通知した。法人税法に基づき資本金が1億円以下の中小企業に当たる場合は総額で前年度比(前年比)1・5%、1億円を超える大企業の場合は1人当たりの平均で同3%を上げ幅の基準としている。
今回の賃上げは、総合評価方式であって、主に土木工事や設計業務などが対象となる。一方、建設関係は、主にプロポーザル方式であるため対象外となる。
特定の業界にのみ負担を強いることは公平性の観点から問題である。
また、今回の加点措置は、令和4年度以降の賃上げを促進する観点から導入するものであり、過去の努力に対する評価は一切されない制度だ。
もし、一律の前年比3%あるいは中小企業で1・5%賃金アップということになれば、賃金内容によっては負担額が大きく異なり、公平性を欠く可能性がある。これまで努力をしてこなかった会社を逆に有利な状況にすることにつながる。
政府は、令和4年度だけでなく5年度における賃上げも評価対象とし、それに基づく加点を単年度を前提とした措置でなく、令和8年度以降も行うことを表明している。これまでの賃上げ努力をしてきた業界に対して更に最低5年間も継続をして賃上げを求め続けるというのは非現実的である。
日建連は、仮にこの仕組みを導入するのであれば、「賃上げの原資確保や更なる適正利潤の確保に向けた国の施策として、設計労務単価、現場管理費、一般管理費などの引上げ、これに伴う調査基準価格の引上げが必要」と。また「民間工事を含めた対応が必要不可欠であることから、国から民間工事を含めた他の発注機関への要請、指導を」との強い要望をしている。
国交省は昨年12月、民間工事について、パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ、を取りまとめ、民間発注者団体等に対して適正な請負代金の設定等について周知徹底を行った。
加点制度による入札優遇策は、多くの中小企業では「いつまで続くかだ」。財務省は期限を定めていないので、政府の方針が変わらない限り続く見通しだ。賃上げ加点を受け続けるには、毎年3%または1.5%の賃上げを継続する必要がある。
人材不足が深刻な地方では、若手を採用するためにも給料の引き上げが欠かせない。事業量を確保できている地場の大手では、10年連続でベースアップをする会社もある。一方で中小は、人件費の上昇などを懸念して賃上げになかなか踏み切れないのが実情だ。
「賃上げすると人件費がかさんで利益率が下がる。人件費削減のためにICTで業務効率化を図りたいところだが、初期投資が必要で導入をためらう」声が上がる。自治体の工事が中心の中小の建設会社にはあまり関係がないが今後、県の発注工事で加点制度が始まったら話は別だ。総合評価落札方式の入札にあまり参加しない企業も、人材確保競争の観点から賃上げせざるを得ない。賃上げが中小の会社にも広がる可能性がある。
4月に始まった賃上げ企業への加点制度に、建設業界から困惑や疑問の声が上がっているが、運用開始から半年を経て業界にも浸透しつつあり、大手では企業の人材確保策の両輪といえる賃上げと新卒採用について、ともに前向きな動きが見られている。(橋本)

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