一般記事

指定管理者制度 本来の意義 民間委託による「課題」の所在 問題が顕在化

2022.9.20 その他

モニタリングし、客観的に評価・検証を行う取り組み
 近年の行財政改革・構造改革の進展による「官から民へ」の流れの中で、建設分野にとどまらず、行政中心で供給されてきた公共サービス分野においても、公契約を通じた民間企業等の活用が積極的に進められている。平成15年9月に施行された改正地方自治法により、新たに「指定管理者制度」が設けられた。法改正以前は制限されていた民間事業者にも、公の施設の管理を任せることが出来るようになり、自冶体に大きな裁量権が与えられることとなった。
また、指定管理者制度を導入するには、指定管理者の指定の手続きについて条例で定める必要があり、さらに、指定管理者の指定は議決事項となっている。奈良県内の市町村でも同制度を活用し、公の施設業務を民間企業やNPOが受託する例が増えてきている。
 宇陀市では、来年4月オープン予定の「榛原駅前交流施設」を運営する指定管理者の募集を今年4月に行い、2社が応募し、選定委員会で1社を指定管理者候補者としたが、6月の定例会で市長が「指定の内容について再考したい」として議案上程を撤回したため再募集となった(既報)。 
 同市では7月11日、総務産業常任委員会を開催し、「指定管理者の再公募の募集について」再公募に至る経緯や再募集についての説明が行われた。委員長報告によると、6月の定例会で議案上程を取り下げた理由について金剛市長は「一つは収支計画に疑義が生じたため、再考することとした。二つ目にカフェの営業時間が15時から21時となっていたことから、市民の憩いの場として、また観光客に対するもてなしという施設の設置目的と整合性が図れない」などとの判断から、議会の議決を求めるに値しないと判断した、と撤回理由を述べ、各委員の理解を得た。また、施設整備については工期短縮を図るため、一部仕様を変更して来年3月の完成を目指すとしている。金剛市長は、大和高原の玄関口・近鉄榛原駅前にふさわしい交流拠点施設のオープンに向けて、指定管理者の指定を急ぐ考えを示した。
 地方自治体が指定管理者制度を導入する目的には、民間企業の持つノウハウを活用することで、多様化する住民サービスの向上と選定手続きを公募とすることで、民間事業者間の競争原理による自冶体の経費削減の2つが主に上げられ、その点については一定の成果を挙げていると言える。
しかし一方で、民間企業では落札コストを下げるため、委託業務に従事する労働者の人件費を低く抑えるようになり、その結果、低賃金・長時間労働など業務に携わる労働者の労働条件の低下を招くなどの法令違反が生じるなど、問題が顕在化し始めている。
 総務省自冶行政局は、このような状況に鑑み「指定管理者制度の運用について(平成22年12月28日総行経第38号)、指定管理者が労働法令を遵守することは当然であり、指定管理者の選定にあたっても、指定管理者において労働法令の遵守や雇用・労働条件への適切な配慮がなされるよう留意する事」とする局長通達を出している。
これら課題の解決に着手しているある地方自治体では、「指定管理者制度導入施設のモニタリング・評価に関する基本方針」を発表し、指定管理者制度導入施設について、効率的な運営やサービス水準の維持・向上、利用者の安全対策など、当初の導入目的にのっとり適切に運営されているかどうかをモニタリングし、客観的に評価・検証を行う取り組みを進めている。
 指定管理者制度本来の意義は、自治体に求められているのはサービスを通じた住民価値の向上であり、コスト削減やサービスの向上は民間事業者の活用によってのみ成し得るもの、と誤解している。住民価値を高めるためには、住民が負担するコストを減らし、住民のニーズやサービス向上などの住民が受け取る利益を増やさなければ意味がない。当然、コスト削減など行政側の都合だけで安易に導入することは避けなければならない。しかしながら、現実的には厳しい財政状況の中で、コスト削減は喫緊の課題になっている。同制度を導入した場合でも直営に戻し、より良い運営手法を再考する動きも出てきている。住民目線で施設の運営に目を配りつつ、自治体と民間事業者が理解と対話を深め、公共サービスの質の向上と持続的な提供に向けて取り組んでいくことが重要である。(橋本)

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