一般記事

能登半島地震支援物資 トイレ輸送の舞台裏

2024.2.1 企業五條市

 能登半島地震の支援で、五條市は1月16日、災害時にも使用できるトイレを石川県能登町に発送した。トイレは、大手ベアリング会社NTNが開発。吉野川堤防に設置する予定を変更し、支援物資として対応したもの。
 奈良県が担当する支援先は、関西広域連合が実施するカウンターパート方式によると穴水町。五條市がトイレを無償で貸与したのは能登町だが、決定に至ったのは五條市の働きかけによるもの。五條市がNTNと適切な支援方法を吟味して県に確認し、県が関西広域連合から聞いた穴水町の意見を踏まえたうえ、五條市から災害ボランティアセンターに問い合わせたという。
 支援決定の経緯は、1月4日、NTNが五條市に対して年始の挨拶と、3月頃に設置予定のトイレが完成したことを電話で伝えた際、能登半島地震の支援物資として使用する意向が一致。9~10日には平岡清司五條市長から許可が下り、11日に五條市とNTNがWEB会議を行った。16日午後に出動式を執り行ったあと、17日午前中、能登町にて設置が完了した。
 都市整備部まちづくり推進課の関係者は「支援物資は時間が勝負。日数が経てば、県外避難など二次避難と呼ばれる次の段階に移行していく。必要なときに使ってもらえるよう、間に合わせるのに必死だった」とコメントした。計画と準備を同時に進めるような状況であったという。
 今回の支援ではNTNが輸送費を負担。派遣した7フィート型モデルのトイレは、4㌧クレーン付トラックで発送した。その際、スタッドレスタイヤを装備した車両の調達に苦労したという。拠点がある三重県や、その近隣都道府県では該当する車両がなかったため、最短納期に向け、長野県でレンタルし、三重県まで回送のうえ対応した。
 内閣府は、能登半島地震による石川県での死者数を、1月29日時点で236人と発表している。支援先には、建築住宅課課長と上席技監が同行。道中、道路の地盤が下がり、橋の浮き上がった様子が見られた。輪島町では、現地で震度5の余震を体感。被災地の自治体職員は落ち着いて対応しているものの、疲弊している様子が見受けられたという。
 平岡市長は出動式当日、能登半島地震の被災者に向けお悔みの言葉を述べた後、「災害時、とりわけ断水時にはトイレや手洗いが行えないため、感染症の蔓延などが懸念されます。このトイレは、令和5年の9月市議会の補正予算の承認を受け発注したもので、災害時における孤立集落対策の移動式トイレです。たとえ避難所の暮らしであっても、日常の暮らしに近い環境を作ることはとても大切なこと。今後も長期的な支援が必要になると思いますが、現地のニーズに合った支援を行っていきたい」と挨拶した。

循環式水洗エコトイレとは
NTN開発「N³エヌキューブ」

 能登半島地震被災支援で使用したトイレのモデルは「N³エヌキューブ」循環式水洗エコトイレ付レストルーム(7フィート型)。ヘリコプターで空輸でき、断水していても臭わないトイレとして、1日30回まで安全に使用できる。1回に使用する水の量は5㍑で、一般の家庭で使用される量と同等。停電時でも太陽光で発電し、水の抜き取りをしなくても微生物が浄化するため、下水道につなぐ必要がない。きれいかつ衛生的で、妊産婦や感染症が気になる人にも便利。国土交通省の快適トイレに対応している。
 機器の状態監視機能を搭載することや、防犯カメラで見守り機能を付与することもでき、Wi―Fiスポットなどの通信ネットワークの構築も可能。
 トイレ以外の使用方法は、防災備蓄倉庫としてエアコンを24時間稼働させ、庫内を25℃以下に保つことで、防災備蓄品や生活必需品に加え、医薬品や液体ミルクの保管をすることの他、携帯電話を始め、自動販売機や小型電動モビリティに給電する、充電ステーションとしての利用方法も挙げられる。あるいは水防センターや多目的施設として、平時は憩いの場に、災害時は支援活動拠点として移設も含めて運用可能。バス待合所として利用する場合は、室内にベンチやテーブルを備え、無線LANによりバス運航情報を確認できる。
 三重県桑名市が多度山上公園に設置したN³エヌキューブ循環式水洗エコトイレ付レストルームには、外装面にデジタルサイネージを搭載。地元企業の広告やクーポン及び桑名市の観光案内などの各種情報を表示し、増加する登山客を地元の商店などへ誘導することで、環境への配慮と地域経済に貢献している。
一般的な仮設トイレの大きさがおおよそ、1・5㍍×90㌢、高さ2・2㍍、重さが90㌔㌘に対して、同トイレは大きさ2㍍×2・1㍍、高さ2・7㍍。本体重量が約1・6㌧。トイレとして利用する場合は、これとは別に水2㌧が必要となる。
 メンテナンスは、汚水の汲取り、水の交換・水はりを年1回程度。利用状況によっては1年以上の使用実績もある。費用は、各自治体で登録している汲み取り業者によって異なり、NTNでも法定点検ではないが、毎年数万円程度の点検を勧めている。5年に1回程度で蓄電池の交換が必要となる。
 NTNでは2016年から自然エネルギー商品の開発・製造・販売を開始。N³エヌキューブについては、2019年に防災倉庫モデルをリリース。更なる付加価値を追求し、トイレメーカーと協業して開発に至った。
 NTN自然エネルギー商品事業部事業推進部の岡田崇宏主査は「ユニセフの資料によると、世界では数億人が安全で清潔なトイレが利用できないそうです。これは、SDGsのひとつにもあげられ世界の共通目標となっている。NTNは、同トイレの設置・活用を通じてSDGsに貢献してまいりたい」とコメントした。(岡本)

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