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大阪万博「残コンゼロ」へキックオフ  残コン・戻りコンの有効活用へ技術研究会発足

2022.11.28 国交省団体

建設現場で打設されずに余った生コンクリート「残コン・戻りコン」を産業廃棄物として捨ててしまう、いわゆる「コンクリートロス」を巡る問題に明るい兆しが見えてきた。
2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の建設工事で発生する残コン・戻りコンをゼロに─。未来への希望を世界に示す万博の開催に向け、環境に配慮した社会を目指す一大プロジェクトが立ち上がった。
プロジェクトの発起人は、一般社団法人「生コン・残コンソリューション技術研究会(RRCS)」だ。鹿島や清水、竹中、錢高などのゼネコン、建設会社や生コン会社、大学など、業界を横断して様々な団体・個人が参画している。
 同法人の代表理事でもある野口貴文教授(東京大学大学院工学系研究科)は、建設現場で打設した後に余った残コン・戻りコンは一般的に、出荷元の生コン工場に戻って、再利用されず産業廃棄物として処理される。その残コン・戻りコンの発生量は生コン総出荷量の3~5%に上ると推測。また、セメントの原料である石灰石があと100年で枯渇する問題を指摘している。
日本で昨年年度に出荷した生コンの総量は約7610万立方㍍(全生工組連)。その3%というと、最低でも200万立方㍍以上が1年で発生していることになる。環境面の問題だけでなく、処理費用は生コン会社の負担となり、経営を圧迫する要因でもある。
RRCSによると、大阪・関西万博のパビリオンやインフラの建設などで使用するコンクリート量は30万立方㍍に及ぶ。残コン・戻りコンが3%発生する場合、9000立方㍍ものコンクリートが無駄に製造されることになる。
大阪・関西万博の運営主体「日本国際博覧会協会」が作成した行動計画では、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、コンクリートへのCO2固定などを盛り込んでいる。
日本最大の生コン組合、大阪兵庫生コンクリート工業組合(木村貴洋理事長)の技術副委員長で、RRCSの万博関連プロジェクトを主導する船尾孝好座長は、「生コン工場に持ち帰る残コン・戻りコンを無くすのが、プロジェクトの最終目標だ」と説明している。
同氏によると、万博で実施しようとしている取り組みには、大きく分けて3つのプロセスがあり、一つ目が、残コン・戻りコンの発生量自体を減らそうとする「削減」だ。生コンを何回かに分けてアジテーター車で現場へ運び、打設していく。そのため、打設しながらまだ打っていない量を把握して追加で発注する。
しかし建設会社は、生コンが現場で不足するのを恐れて多めに発注する傾向がある。そのため、削減だけでは残コン・戻りコンを無くせない。
そこで2つ目の対策が「分配」だ。RRCSでは、大阪・関西万博で複数の建設現場が同時に稼働する点に着目。「A現場で余った生コンをB現場で使い回せれば、残コン・戻りコンを抑制できる」。
各現場で発注したコンクリートの性能や打設状況を共有するシステムの導入を検討している。システム上で、生コンが余った現場と、打設途中で受け入れの余地がある現場をマッチングさせる想定だ。
ただ、採用するには自治体の許可が必要。加えて、練り混ぜから一定時間に打設しなければならないといった制約を受ける。
3つ目が「集約」だ。削減と分配を通して余った生コンを敷地内に整備した「ロスコンステーション」に集め、最終的に違う製品を作る。薬剤を加えて路盤材の材料にしたり、固めて車道と歩道を仕切るブロックにしたりする。RRCSでは「万博のような一大事業で残コン・戻りコンをゼロにする取り組みは他にないだろう。世界中に発信していきたい」としている。
一方で、今回の取り組みを一つの特殊な事例で終わらせず、通常の建設現場にも活用できるようにすることが重要である。
SDGsへの意識の高まりや、「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、大阪・関西万博で整備するロスコンステーションを、国交省が運営する『NETIS』に登録できれば、全国に普及する起爆剤になるかもしれない。
(橋本)

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