一般記事

「スライド条項」の適切な運用 全国の自冶体や建設業団体に通知

2022.7.11 国交省

原油や資材の高騰で価格転嫁が喫緊の課題

国土交通省は「スライド条項」の適切な運用などを求める通知を全国の自治体や建設業団体に通知した。収束の気配が見えない原油や資材の高騰で、価格転嫁が喫緊の課題になっている。建設会社が資材価格の上昇分を請負代金に反映できなければ、収益悪化は止まらない状況である。

 

[caption id="attachment_46628" align="alignnone" width="300"] 資料1 異形棒鋼とH形鋼の価格推移。2021年1月の価格を1として相対値を示した。[/caption]

 
政府は今年4月26日、民間資金を含めて事業規模が13・2兆円に及ぶ「総合緊急対策」を打ち出した。物価高騰への対策として、燃料油価格の激変緩和措置などの支援策に加え、価格転嫁の促進を挙げる。
昨年1月から81%上昇
新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻などの影響による資材価格の高騰は、いまだに収束の気配が見えない。例えば異形棒鋼は、建設物価調査会の調べによると今年5月時点で1t当たり12万1000円。昨年1月の6万7000円から81%上昇した(資料1)。
[caption id="attachment_46629" align="alignnone" width="300"] 資料2[/caption]
こうした資材価格の上昇を、いかに契約金額に反映させるかが目下の課題だ。例えば、1次下請け会社ならば元請け会社との、元請け会社ならば発注者との、それぞれの契約に価格上昇分を反映できなければ、受注者側にしわ寄せが来る。
契約金額変更の申し出を拒否
国交省が価格高騰の影響について、元請け会社の現場所長らを対象に今年1~3月に実施したヒアリングの結果によると、『発注者の予算枠の都合により、ほぼ認めてもらえない。発注者が理解を示すことはあるが、実際に請負契約の変更に至るケースは少ない。民間工事では、営業と客先の関係が良好な場合は、協議をすることがある。予算やコストなどによる。物価変動ではなく工期に起因するコストについては、元請けである当社がいったん負担し、後で発注者と交渉し、不成立ならばそのまま当社が負担する。下請けへの転嫁はしていない』などとの回答。発注者に対する契約金額変更の申し出を「受け入れてもらえない」との回答が16%に上った(資料2)。
[caption id="attachment_46630" align="alignnone" width="300"] 資料3[/caption]
入札で受注者が決まる公共工事の場合、契約前の価格上昇については、予定価格に反映されているかどうかが問われる。仮に低過ぎる単価で予定価格を設定すれば、その金額以下で札を入れる参加者が現れず、不調が頻発するはずだ。しかし、そのような傾向はみられないという。
スライド条項は3種類
問題は、契約後の価格上昇だ。受注直後に必要な資材を確保し、その時点の価格で購入契約を結べば問題はない。しかし、全ての資材を受注時に手配できるわけではない。特に深刻なのが民間工事だ。国交省のヒアリングでは、「民間の発注者は『物価変動リスクは請負者負担』という考えが根強い」といった声が聞かれた。
国交省は原則として全ての工事契約に、物価変動に伴う請負代金の変更を規定した「スライド条項」を盛り込んでいる。公共工事標準請負契約約款の26条だ。同省は4月26日の通知で、スライド条項を適切に運用するよう受発注者に求めた。
スライド条項には、「全体スライド」(26条1~4項)、「単品スライド」(同5項)、「インフレスライド」(同6項)の3種類がある。全体スライドは、長期的な物価の上昇に対応する規定で、工期が12カ月を超える工事に適用する。
単品スライドは、特定の資材の価格高騰に対処するための規定だ。第2次オイルショックによる資材高騰を受け、昭和55年に特約条項として実施したのが始まりだ。その後、しばらく適用例がなかったものの、平成20年に鋼材と燃料油を対象として28年ぶりに発動した。
インフレスライドは、主に労務費の上昇に対応する規定だ。まず、東日本大震災後に労務費が高騰した被災3県で適用された。その後、公共工事の設計労務単価が25年度に上昇へ転じたことを受け、国交省が26年1月にインフレスライドの運用を通知。それ以降、本格的な運用が始まった。設計労務単価の引き上げ前に契約した案件で適用し、残工事に新たな労務単価を反映させる。
ただし、こうしたスライド条項で、資材価格や労務費などの上昇分を全て賄えるわけではない。工事費の上昇分のうち1%あるいは1・5%は受注者が負担しなければならない。また、実際にかかった費用ではなく、基本的に官積算の単価に基づく点にも注意が必要だ。
最近の資材価格の高騰は、主に単品スライドの対象になると考えられる。平成20年当時は対象を鋼材と燃料油に限っていたが、現在はそれ以外の資材にも適用できる。資材価格の上昇が始まった昨年度は23件の適用例があった。まだ件数は少ないものの、前年度の4件から6倍近くに増加している。今年度はさらに増える見通しだ。
国交省会計課では、「最近の物価上昇に関しては、単品スライドに限らず、全体スライドやインフレスライドも対象になる」としている。どのタイプのスライドを選ぶかは、各工事の受注者が判断する。
価格転嫁できない下請けが2割弱
 一方で、元請けと下請けとの間の価格転嫁も重要な課題だ。中小企業庁が下請け会社などを対象に昨年10~11月に実施したアンケートによると、建設業では価格に転嫁できていない会社の割合が18・5%に上る(資料3)。
たとえ、価格に転嫁できても、その金額がコスト上昇分の6割以下の会社が34・5%を占める。
回答結果を基に、中小企業庁が発注側企業(元請け)の対応の良し悪しを点数化して業種別に順位をつけたところ、建設業は「価格交渉の協議状況」で16業種中3位と良好だった。ところが、「価格転嫁の達成状況」については13位と下位に位置する。建設業では元請けが下請けからの協議によく応じるものの、代金の引き上げには渋い姿勢を見せているといえる。
(橋本)

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