一般記事

安衛法施行50年 「一人親方の安全確保へ」 最高裁判決を反映

2022.5.31 省庁

労働安全衛生法が保護対象としていない一人親方らの業務上災害の防止に向け、厚生労働省は個人事業者や中小企業事業主の安全衛生対策を強化するための具体的な検討をスタートした。
昨年5月の建設アスベスト(石綿)訴訟の最高裁判決は、一人親方を含む屋内建設作業者が石綿に暴露して健康被害を受けたことに対し、適切な規制を行わなかった国の責任が認められた。
これを受けて厚労省は、労働者に該当しない一人親方らの健康障害を防ぐ必要があると判断。最高裁の判決の考え方が反映したものと言える。今年5月13日に開いた有識者検討会の初会合で議論を開始した。
検討会では、現行の安衛法における個人事業者らの位置付けや、労働者と違う立場にある個人事業者らの保護に必要な対策、経営基盤が脆弱な個人事業者らへの支援などを議論する。
現行制度でも、発注者には指定した施工方法に対する注文者責任、元請けには建設現場全体の労災を防止する統括安全衛生管理の責任が求められている。一人親方に適正な作業を確実に行わせるようにするには、発注者や元請けが果たすべき役割、責任についてより踏み込んだ議論が必要だ。
例えば安衛法20条は、事業者(労働者の雇用主)による機械・器具、爆発性・発火性・引火性の物、電気、熱などによる危険防止措置を規定。21条は、事業者による掘削、採石、荷役、伐木などの作業方法による危険防止の他、墜落や土砂崩落などの恐れのある場所における危険防止の措置を定めている。
安衛法の20条と21条はいずれも、事業者による原材料、ガス、蒸気、放射線、高温などによる健康障害防止措置を定めた22条と同様に、条文上の保護対象を労働者に限定していない。22条については、建設アスベスト訴訟の争点となったことから、保護対象を拡大するよう、先行して関係省令を改正。今年4月15日に公布した。関係省令は来年4月1日に施行する。
厚労省が改正したのは、石綿障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則など安衛法22条に基づく11省令だ。危険で有害な作業を担う一人親方や下請け事業者ら請負人に加え、同じ作業場所で別の作業をしている一人親方や資材搬入事業者、警備員らに対しても、自社の労働者と同等の保護措置を講じるよう事業者に義務付ける。
 今年は安衛法の施行から50年に当たる。この間、建設労働者の死亡災害の発生件数は年間2000人超から令和3年は274人と大幅に減少している。しかし、全産業に占める割合は32・2㌫と依然として高い状況にある。一人親方の被災件数については、正確な統計すら整備されていないのが現状。今こそ、実態を明らかにし、建設現場で働く全ての作業者が安心して働ける職場環境の実現へ、厚労省は契約関係に着目した責任や義務の整理、規定の充実だけでなく、どうすれば災害を減らせるかという実質的な観点からも、有効な対策を導き出してほしい。

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