民間情報

「後出し増額」は社会の信頼損ねる 全国で50億円以上の増額が50件

2023.4.17 カテゴリ2(民間情報)

大規模プロジェクトの進行中に、当初見込んでいなかった費用を上積みして事業費が膨れる例が後を絶たない。こうした「後出し増額」は、公共事業への社会の信頼を損ねるだけでなく、適切なタイミングでの事業見直しの機会を奪う点で、許されない行為だ。
国土交通省が昨年度に実施した事業再評価の資料には様々な増額要因が並ぶ。後出し増額には、全国の受発注者が多くの「想定外」に対応した経緯が含まれる。後出し増額事業のうち、50億円以上の増額が50件超える。
人口の減少でインフラの費用対効果が今後さらに見込みにくくなり、「後出し増額」は通用しなくなる。安易な後出しを防ぐため、地質・地盤分野ではリスクマネジメントの考え方の導入が始まっている。事業の様々な不確実性を前倒しで見える化し、増額リスクを賢く管理する必要がある。
これまで右肩上がりに経済が成長する時代は、インフラを作れば一定の効果が生まれることが明確だった。そのため、もし追加のコストが生じても事業費に上積みしやすかった。
昭和39年に開通した東海道新幹線では、事業費が当初計画のほぼ2倍の約3800億円に膨らんだ。当時の国家予算の約1割に相当する費用を投じても、十分な経済効果があったわけだ。しかし、高速道路や新幹線の整備が進むにつれ、交通分野では大規模プロジェクトの効果はかつてより小さくなっている。昔と同レベルの後出し増額が許される時代ではない。
事業の再評価で判明する増額の詳細な経緯は掘り下げる価値のある「宝の山」だ。これらを整理・蓄積すれば、「地域ごとに一品生産」と呼ばれる土木事業であっても共通の課題が見えてくるはずだ。
大阪市や鉄道・運輸機構は事業費増大への批判を受け、リスク管理体制を見直した。リスクを「見える化」し、問題が顕在化したらいち早く組織の上層部に上げる。事業の透明性を高め、対外的な情報発信にも力を入れる。市は平成29年11月、当時の吉村洋文市長の指示で「大規模事業リスク管理会議」を立ち上げた。現在、淀川左岸線(2期)や夢洲(ゆめしま)の土地造成など5つの大型事業を対象とする。リスク管理会議では、対応が後手に回らないよう、事業リスクの「見える化」に力を入れる。まずは、事業の所管部局でリスクを評価。続いて、想定したリスクが顕在化していないかモニタリングする。事業への影響をチェックして、必要に応じて対策を講じる。大きな変化があった場合には、年に1、2回程度開催するリスク管理会議の会合で報告する。
大阪市のリスク管理の特徴は、発生確率がある程度高いリスクによる増額を、あらかじめ事業費に盛り込んでおく点だ。ほぼ確実に必要とされる費用だけで見積もる従来の事業費とは考え方を異にする。また、市が強調するのは、市民への説明責任だ。「後になって『事業費が増えました』『想定していませんでした』では、市民は納得しない」。市民の信頼を損ねることが、行政組織としてのリスクだという。 (橋本)

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